ロードライディングの美学を追求した
サイクリングアパレル

かつてないサイクルウェアを作る

世界で最も幸福度の高い国として知られる北欧のデンマーク。自転車活用でも世界指折りの先進国として知られる存在でもあり、首都コペンハーゲンの街には余裕で並進できる幅の自転車レーンが整備され、そこを自転車に乗った人々が次々と走り抜けて行きます。その一方で自転車競技へ目を向けると、1996年にツール・ド・フランスを制覇したB・リースによって興されたプロチーム、CSCやサクソバンクが活躍し、2019年はマッズ・ペデルセンが世界選ロードを制するなど足跡を着実に残しています。デンマークの人々にとって自転車という存在は、日常生活からスポーツ、レジャーまで切っても切り離せないのです。そんな国から生み出されるサイクリングアパレルブランドがPas Normal Studiosなのです。

創業の中心人物はピーター・マッズセンとカール・オスカー・オルセン。ピーターは自らの事業の傍ら自転車のクラブチームの運営に携わり、「WOOD WOOD(ウードウード)」というファッションブランドのオーナー兼デザイナーであるカールは、マスターズのデンマークロードチャンピオンの父を持つホビーサイクリストでした。熱心なサイクリストの2人が出会いライドに興じるようになると、彼らは「自分たちが好むサイクルウェア」を望むようになります。2014年のことです。
「当時のウェアは今よりもフィット感がルーズで、カラーもブライトでデザインはゴチャゴチャとしたものが多かった。僕らはもっとタイトなフィットでミニマルなデザイン、落ち着いたカラーのウェアが欲しかった。だからカールにデザインしてもらい(既存のウェアメーカーに)オーダーしたんだ」と、ピーターは当時を振り返ります。

自分たちのサイクリングコミュニティ用に作ったこのウェアは、やがてその外でも評判となります。そこで彼らは翌年の2015年にPas Normal Studios(パ・ノーマル・ストゥーディオス)を立ち上げるのです。特徴的なブランド名はカールが読んだアメリカの元プロ選手タイラー・ハミルトンの自叙伝に書かれた一文に由来するもので、「パ・ノーマル」とはフランス語で「普通じゃない」という意味。それは「今までのサイクルウェアにはないものを作る」という彼らの意気込みの現れでもありました。

ミニマルでクリーンな
ダニッシュデザイン

北欧に少しでも関心のある人なら、中でも特にデンマークがデザイン大国と言われるのをご存じでしょう。アルネ・ヤコブセンの「スワンチェア」をはじめ家具や建築で名を馳せるデザイナーや作品を数々輩出しています。

Pas Normal Studiosの本拠地であるコペンハーゲンの街を歩けば、秀逸なデザインの建築や家具にすぐに出合うことができます。そして彼らの住まいに足を踏み入れば、白壁とそれに馴染むように誂えた冷蔵庫や食洗機があり、無駄なものは少なくミニマルでクリーン。しかし木目を要所に用い無機質とならない暖かみのあるデンマークならではの空間が演出されています。

カールはPas Normal Studiosのウェア作りの哲学の一つをこう語ります。「Pas Normal Studiosはミニマルでシンプル、クリーンなダニッシュデザイン(デンマークのデザイン)が基本なんだ。それは僕たちデンマーク人のDNAに刻まれた美学だよ。そんなデザインの中にも機能をしっかりと詰め込んだ高品質なウェアをサイクリストに届けたいんだ」

そのコンセプトが明確に現れているのが、コレクションの中でも最もベーシックな「メカニズム」というコレクションです。単色など色数を抑えたジャージの胸元には小さなブランドロゴ。その背中とビブショーツの太ももには「PNS」のロゴしか入らず、圧倒的にミニマルでシンプル、クリーンな雰囲気が演出されています。

さらにPas Normal Studiosのカラーはコーディネートしやすい黒や紺、濃緑などを基本としながら、街の景色や自然に馴染む鮮やかさを抑えた独特の色味が多いのも特徴です。「やっぱりライド後はコーヒーショップに立ち寄りたいだろう。そんな時にお店で浮いた存在にならないスタイルも大切だからね」と、ピーターは理由の一つをこう説明します。

フィット感とシルエットへの
ストイックなこだわり

こうしたデザインと並び、Pas Normal Studiosのもう一つのウェア作りの哲学となるのがフィット感です。

カールはこう言います。「普段の生活でスーツを着ることは正装だろ。それと同じで僕らにとってロードバイクに乗るときの正装といえば、プロレーサーが着るようなタイトフィットのウェアキットなんだ。でもプロチームのようなデザインは僕らの感性に合わないから、そこにミニマルでクリーンなデザインを合わせているんだ」

Pas Normal Studiosのジャージ類は他社の製品と比べるとフィット感がタイトです。しかし肌に吸い付くようなフィット感は、ライディングにおける窮屈さは微塵もありません。この仕立ては、ライダーの動きを妨げず高いエアロ性能を発揮するのはもちろんですが、プロレーサーのような精悍な佇まいをもたらすのです。それは彼らが求めて止まないロードライディングの美学において欠かせない要素なのです。

このフィット感とルックスを両立するために、Pas Normal Studiosの素材へのクオリティと細かなカッティングへのこだわりは格別です。豊富なカラーを展開するメカニズムのビブショーツでは表裏を染色した独自の生地で作られ、ジャージはではタイトでありながら窮屈さのない着心地のために、ミリ単位でカッティングとシェイプを調整しています。そしてそれは常にベストを求めて毎年進化し続けます。
「シリアスなロードサイクリストは重量やワイヤリング、タイヤの空気圧などバイクの細かな部分をとても気にするだろ。だから体に触れるウェアはなおのことシビアな作りが求められる。我々は常に完璧なウェアキットを求めて進化を続けるんだ」と、カールは言います。

そしてピーターはこうも語ります。「オリジナルの生地を調達したりするのはコストも手間も掛かるし面倒だよ。でも自分たちが望む性能のためには仕方のないこと。我々はクオリティに妥協はしたくないんだ。それこそが“パ・ノーマル”なウェア作りの原点だよ」

ロードバイクウェアは、数あるスポーツバイクのアイテムの中でも速く走るために無駄なものをそぎ落とした存在です。それをさらにミニマルでシンプルな存在へと昇華させるPas Normal Studiosの試みは、ロードライディングの本質である速さから生まれる「美」を追求するからにほかならないのです。そのストイックな志は、これまでにない、まさに“パ・ノーマル”なサイクリングアパレルなのです。